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2・恋かもしれない……。 Page3

last update Date de publication: 2025-03-05 10:00:01

   * * * *

「――琴音先生、お待たせしちゃってゴメンなさいっ!」

 三十分後。私は洛陽社にほど近い神保町のセルフ式カフェの店内で、待っていて下さった琴音先生にペコッと頭を下げた。

 今日は土曜日なので、満員電車が苦手な私は電車を二、三本遅らせた。そのせいで着くのが遅くなってしまったのだ。

「ああ、いいって。気にしないでよ。あたし今日はヒマだって言ったじゃん? とりあえず、そこ座ったら?」

 琴音先生はあっさり私のことを許してくれて、向かいの空(あ)いている席を勧(すす)めてくれた。

 西原琴音先生はモデルさんみたいにスラリと身長が高くて、スタイル抜群(バツグン)。でも全く気取ってなくて、優しいお姉さんという感じの女性だ。

 私はアイスカフェラテとガムシロップの載(の)ったトレーをテーブルに、バッグを椅子(いす)の傍(かたわ)らに置き、勧められた席に着(つ)いた。

 琴音先生の前には、白いカップが置かれている。中身はカフェオレかな?

 今は四月なので、温かい飲み物にしてもよかったのだけれど。私は猫(ねこ)舌(じた)なので、熱いのが苦手なのだ。

「――それでナミちゃん。電話で言
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  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page19

    「でも、あなたがいてくれなかったら、私もここまで来られなかった。だから、やっぱりあなたのおかげなんです」「ガンコですねえ、ナミ先生は」 急に声のトーンが変わり、原口さんは笑い出した。「なっ……、何がおかしいんですか!?」 私は彼に突っかかった。せっかく素直に感謝の気持ちを表しているのに、笑うなんて……!「でも、ガンコなところも謙虚なところも全部含めて、僕はナミ先生が好きなんです」「…………」 私は原口さんをじっと見つめて固まった。こんな恋愛小説のヒーローが言うようなクサいセリフを、地で言える彼が信じられなくて。 彼ってこんなキャラだったっけ? 少なくとも、付き合い始める前はこんなセリフ絶対言わなそうなタイプだと思っていたけれど。 もしかして、こっちが彼の素(す)で、前はネコ被(かぶ)ってたとか?「あと、未だに下の名前で呼んでくれないところも」「~~~~~~~~っ!」 私はぐうの音(ね)も出ない。よりにもよって、一番痛いところをついてきた。&n

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page18

    「とはいっても、『君に降る雪』の方は加筆修正の必要はないので、先生の手を煩わせることはありません。なので、先生は新作の執筆だけに専念して下さい」「はあ、よかった」 私はホッと胸を撫で下ろした。手書き派の私には、一作分だけの仕事(プラス書店のバイト)だけでいっぱいいっぱいなのに、二作分の仕事をしなきゃいけないとなったらもうキャパオーバーだ。バイトだって辞めなきゃいけなくなるかもしれない。「ナミ先生が作家活動とアルバイトを両立できるように、新作の執筆以外はなるべく先生の負担を軽くしていくつもりなので。これでも僕、ちゃんと考えてるんですよ」「そうなんですね……。原口さん、ありがとうございます」 彼はSだけど、基本的に私には優しい。こうして、いつも私の事情を真っ先に考えてくれている。 もちろん恋人としてもそうだけど、編集者としても彼は私と相性がいいと思う。ケンカもするけど、一緒に組んでいてすごく仕事がしやすいし、何より楽しいし安心感がある。「――あの、私はそろそろ失礼します。新作の原稿、早く書き上げたいし。お茶、ごちそうさまでした」 私がソファーから立ち上がると、「下まで見送ります」と原口さんも立ち上がった。「……ねえ原口さん」 エレベーターに乗り込んでから、気まずい沈黙をかき消すように私から口を開く。「はい?」「私、あなたに出会えてよかったです。あなたが担当編集者でよかった。私の担当になってくれて、ありがとうございます」「……えっ、どうしたんですか? 急に改まって。まさか、〝作家辞めます〟フラグじゃ――」 彼が

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page17

    「近石さん。……あの」「はい?」 作家にとって、自分の手で生み出した作品は我が子も同然(どうぜん)。だから……。「私の作品(ウチの子)を、どうかよろしくお願いします!」 我が娘(コ)を嫁に出すような想いで、私は近石さんに頭を下げた。原口さんはそんな私を見て唖然(あぜん)としているし、近石さんも面食らっているけれど。「……はい。お任せ下さい。必ず先生のご期待にお応えできるような、いい映画にします! では、僕はこれで」 頼もしく頷いて、近石プロデューサーは編集部を後にした。「――それにしても、『ウチの子』は大ゲサすぎませんか?」 二人きりになった応接スペースで、原口さんが笑い出した。「まだ結婚もしてないのに『ウチの子』って……」「ちょっと原口さん! 笑いすぎでしょ!?」 も

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page16

    「バレました? 実はそうなんです。僕ももっと早く先生にお話しするつもりだったんですけど、先生が喜ばれるかどうか心配で。僕よりも映画のプロの口から伝えていただいた方が説得力があるかな……と」「はあ、なるほど」 私も自分が書いた作品の出来(でき)には自信があるけれど、「映画化するに値(あたい)するかどうか」の判断は難しい。そこはやっぱり、プロが判断して然(しか)るべきだと思うのだ。「僕は先生がお書きになった原作の小説を読んで、『この作品をぜひ映像化したい!』と強く思いました。それも、アニメーションではなく、生身(なまみ)の俳優が動く実写の映画にしたい、と。それくらいに素晴らしい小説です」「いえいえ、そんな……。ありがとうございます」 私は照れてしまって、それだけしか言えなかった。自分の書いた小説をここまで熱を込めて褒めてもらえるなんて、なんだかちょっとくすぐったい気持ちになる。それも、初対面の男性からなんて……。「――あの、近石さん。メガホンは誰がとられるんですか?」 どうせ撮ってもらうなら、この作品によりよい解釈をしてくれる監督さんにお願いしたい。「監督は、柴崎(しばさき)新太(あらた)監督にお願いしました。えー……、スタッフリストは……あった! こちらです」 近石さんが企画書をめくり、スタッフリストのページを開いて見せて下さった。「柴崎監督って、〝恋愛映画のカリスマ〟って呼ばれてる、あの柴崎監督ですか!?」 私が驚くのもムリはない。私と原口さんは数日前に、私の部屋で彼がメガホンをとった映画のDVDを観たばかりだったのだから。「わ……、ホントだ。すごく嬉しいです! こんなスゴい監督さんに撮って頂けるなんて!」「実は、主役の男女の配役ももう決まってまして。あの二人を演じてもらうなら、彼らしかいないと僕が思う演者(えんじゃ)さんをキャスティングさせて頂きました」 近石プロデューサーはそう言って、今度は出演者のリストのページを開いた。「えっ? ウソ……」 そこに載っているキャストの名前を見て、私は思わず声に出して呟いていた。「……あれ? 先生、お気に召しませんか?」「いえ、その逆です。『演じてもらうなら、この人たちがいいな』って私が想像してた通りの人達だったんで、ビックリしちゃって。まさにイメージにピッタリのキャスティングです」 こん

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page15

    「いえ、僕もつい今しがた来たところですから」「あ……、そうでしたか」 TVでもよく見かけるイケメンさんに爽やかにそう返され、私はすっかり拍子抜け。――彼が敏腕(びんわん)映画プロデューサー・近石祐司さんだ。「先生、とりあえず冷たいお茶でも飲んで、落ち着いて下さい」「……ありがとうございます」 原口さんが気を利かせて、まだ口をつけていなかったらしい彼自身のグラスを私に差し出す。……私は別に、彼が口をつけていても問題なかったのだけれど。 ……それはさておき。私がソファーに腰を下ろし、お茶を飲んだところで、原口さんがお客様に私のことを紹介してくれた。「――近石さん。紹介が遅れました。こちらの女性が『君に降る雪』の原作者の、巻田ナミ先生です。――巻田先生、こちらはお電話でもお話しした、映画プロデューサーの近石祐司さんです」「巻田先生、初めまして。近石です」「初めまして。巻田ナミです。近石さんのお姿は、TVや雑誌でよく拝見してます。お会いできて光栄です」 私は近石さんから名刺を頂いた。私の名刺はない。原口さんはもう既に、彼と名刺交換を済ませているようだった。「――ところで原口さん、さっき『君に降る雪』って言ってましたよね? あの小説を映画化してもらえるってことですか?」 その問いに答えたのは、原口さんではなく近石さんの方だった。「はい、その通りです。

  • シャープペンシルより愛をこめて。   後日談・二ヶ月後…… Page14

    「――どうでもいいけどさ、奈美ちゃん。早くお弁当(それ)食べちゃわないと、お昼休憩終わっちゃうよ?」「えっ? ……ああっ!?」 壁の時計を見たら、十二時五十分になっている。ここの従業員のお昼休憩は三十分と決まっているので、残りの休憩時間はあと十分くらいしかない! 慌ててお弁当をかっこみ始めた私に、由佳ちゃんがおっとりと言った。「奈美ちゃん、……喉つまらせないようにね」   * * * * ――その日の終業後。「店長、お疲れさまでした! 由佳ちゃん、私急ぐから! お先にっ!」 清塚店長と由佳ちゃんに退勤の挨拶をした私は、ダッシュで最寄りの代々木駅に向かった。 原口さんは、近石プロデューサーが何時ごろにパルフェ文庫の編集部に来られるのか言ってくれなかった。電車に飛び乗ると、こっそりスマホで時刻を確かめる。――午後四時半。近石さんはもう編集部に来られて、原口さんと一緒に私を待ってくれているんだろうか? 私は彼に、LINEでメッセージを送信した。『原口さん、お疲れさまです。今電車の中です。近石さんはもういらっしゃってますか?』『いえ、まだです。でも、もうじきお見えになる頃だと思います』 ……もうじき、か。神保町まではまだ十分ほどかかる。先方さんには少し待って頂くことになりそうだ。私が編集部に着くまでの間、原口さんに応対をお願いしようと思っていると。 ……ピロリロリン ♪『ナミ先生がこちらに着くまで、僕が近石さんの応対をします。だから安心して、気をつけて来て下さい』 彼の方から、応対を申し出てくれた。『ありがとう。実は私からお願いするつもりでした(笑)』 以心(いしん)伝心(でんしん)というか何というか。こういう時に気持ちが通じ合うって、なんかいいな。カップルっぽい。……って、カップルか。 ――JR山手線(やまのてせん)の黄緑色の電車はニヤニヤする私を乗せて、神保町に向かってガタンゴトンと走っていた。   * * * * ――それから約十五分後。 ……ピンポン ♪ 私は洛陽社ビルのエレベーターを八階で降り、猛ダッシュでガーネット文庫の編集部を突っ切っていった。「おっ……、遅くなっちゃってすみません!」 奥の応接スペースにはすでに原口さんと、三十代半ばくらいの短い茶髪の爽やかな男性が座っている。私は息を切らしながら、まずはお待た

  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page11

     玄関のドアがパタンと閉まる。少しだけ新婚気分に浸(ひた)っていた私は、現実に引き戻された。 時刻はもうじき八時半。そろそろ家を出ないとバイトに遅刻する。「――よしっ! 行くぞ!」 仕事着の上から薄手のカーディガンを羽織ると、気合いを入れるために両方の頬をパンッと叩いた。 トートバッグを提げ、仕事用の黒いスニーカーを履いて、キチンと戸締りをすると朝の爽やかな空気を吸いこみ、町へと飛び出して行った。 書店へ向かう道すがら、私は考えていた。 私は多分、自分の気持ちをうまく隠せていないから、原口さんにも私の想いはダダ漏れだと思う。……じゃあ原口さんは? 今のところ、彼が私のことを一人

  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page10

    「――あっ、ねえ原口さん。ちなみに玉子焼きは甘いのとしょっぱい系、どっちが好(す)きですか?」 そういえば、彼の食べ物の好(この)みだって知らなかったな。この際(さい)だから、思い切って訊いてみようっと。「しょっぱい方ですね。甘いものは好きなんですけど、玉子焼きの甘いのだけは好きじゃなくて」「えっ、ホントに? 私もなんです! お寿司屋さんでも玉子は頼まないんですよね。甘いから」 すごい、何たる偶然! いや運命!? こりゃテンションも上がるってもんだ。「今度原口さんがウチでゴハン食べる時は、玉子焼き作りますね!」 別に「またウチに泊まっていって」っていう意味じゃなく、あくまでもお腹

  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page9

    「うちの母も、よく二日酔いになる父のためにシジミ汁を作ってました。私が料理上手なんだとしたら、きっと母に似たんだと思います」「なるほど、そうなんですか。――お父様のご職業は?」 原口さんから、私の家族のことを訊かれたのも初めてだ。なんだかお見合いの時みたいな(経験はないけど)妙な気分になる。「父は大手商社に勤(つと)めるサラリーマンです。原口さんと一緒で下戸なんですけど、接待とか仕事上のお付き合いとかで飲まされることが多いらしくて……。会社員の人って大変ですね」 原口さんも同じ会社員だ。業種こそ違うけど、少なからずお父さんにシンパシーを感じたらしく、「はい」と頷いている。「私も父か

  • シャープペンシルより愛をこめて。   4・縮まる距離、そして元カレとの再会 Page7

     昨夜、原口さんは部屋が薄暗くて私の姿が見えなかったから、どうにか理性を保てていられたらしい。 じゃあ、もし部屋がもっと明るくて、私の格好がよく見えていたらどうなっていたんだろう? 私はショートパンツ姿で、ナマ足を惜(お)し気(げ)もなく(?)披露(ひろう)していたし、胸だってけっこうグラマーな方だと自負(じふ)している。 それに、湯上がりだったからいい香りもしていただろうし。 数週間前の朝、私の寝起き姿を見た時だって、彼は落ち着かない様子だった。もしかしたら、本当にキスどころか一線を越えてしまっていたかもしれない。「いやいやいやいや! ないない」 だって、あの原口さんだもん。優

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